アンドロギュノス
■アンドロギュノスという言葉とその意味を聞いてから、35年以上が経つというのに、私
はその時の光景を、今でもハッキリと思い出すことが出来ます。私はキリスト教系短大に通
っていて、西洋思想史の講義の中で聞いたのですが、とても興味深い内容でした。
■その講義を行っていたのは、ほっそりとスマートで、清潔感あふれる紳士といった感じの
先生でした。ロマンスグレーにいつも優しい笑みをうかべて、語りかけるように講義をなさ
る方でした。・・・・・・・・
■かつて、人は一つの体を男女二人が共有する、アンドロギュノスすなわち男女両性人だっ
た。でも、お互い我を張りすぎて、一つの体を共有できなくなり、男女別々の体になってし
まった。だから、世界のどこかに、かつて一つの体を共有していた、自分と心も体もピッタ
リと一致するたった一人の人がいるんですよ。
■まだ、恋人もいない私は、「へぇ、どこかに、私の片割れさんがいるんだねぇ・・」と、
何ともいえない・・将来に対する希望というか、期待というか、憧れというか・・そんなも
のをもったものでした。あの時、私だけでなく、あの講義を聴いていた20歳前後の女子大
生は、目をハートにして聴いていたのではないでしょうか。毎年、そんな私たちのハートの
視線を感じながら、気持ちよく講義をなさっていたのではないかと、あの頃の先生の年齢に
なった私はそう思うのです。
■先生は、アンドロギュノスのお話の最後に、「私と私の妻はかつて一つの体を共有してい
た人だと思うんですよ」とささやくようにおっしゃいました。私は、この素敵な紳士からそ
んな風に語られる奥様って幸せな方だなぁ・・と、思ったものです。
■あれから、35年・・・。私は、これまで、このアンドロギュノスの話を何度か若い人に
話したことがあります。何度もではなく、何度か・・。
もったいなくて、誰にでもは話せない・・。あの時の先生の思い、そして私の思いを、受
け取ってもらえる・・と受け止めて欲しいと・・思う人に出会った時に、何度か話してきま
した。
■私も、「私と私の主人はかつて一つの体を共有していた人だと思うんですよ」と、しめく
くってきました。私はアンドロギュノスの話をする度に、今ここにある幸せを確認し感謝し
てきたような気がします。あの時の先生もそうだったのかもしれないと、今、あの時の先生
の年齢になった私はそう思います。あの時、アンドロギュノスの話をして下さったM先生、
ありがとうございます。