認知症は宝物
超高齢化社会の日本、ほとんどの人が、何らかの認知症の悩みをかかえているのではないで
しょうか。
症の悩みを口にすれば、「実は、私の父も・・・」ということになりませんか?
日本の総人口の3割が65歳以上の高齢者で、その7人に1人が認知症、2025年には5人に1人
が認知症になるといわれています。この数字から、誰もが認知症の悩みを抱えているので
は、と推測できるのですが、実際、認知症の悩みを口にする人は、少ないし、「実は・・」
と応じる人も少ないと感じますが、いかがでしょうか?
「認知症には、なりたくない」「認知症は、恥ずかしい」・・・、そんな意識はないでしょう
か?
認知症になりたい人なんていないと思いますが、努力で防げるものではありませんし、どん
なに気をつけていても、だれもが認知症になり得るのです。それは、明日かもしれないし、
認知症を発症しないまま、人生を終わるかもしれないけれど、それは誰にもわかりません。
それなら、自分が認知症になった時、あるいは、身近な人が認知症になった時の心構えが必
要だと思います。
私の81歳の父も、7年ほど前に認知症の入り口にいるとの診断を受けました。覚悟はしてい
たものの、あのしっかり者の父が認知症だなんて・・・と当時は大変ショックでした。
あれから、7年を過ごす中で、父にも母にも、家族にも色々な変化がありました。そして、
今、思うことは、身近な家族の捉え方次第で、認知症は宝物に変えられるということです。
父は、発症後も5年ほど自宅で家族と過ごした後、糖尿病の治療のため入院、医師の勧め
で、退院後、そのまま施設に入所して1年半になります。
こちらの捉え方次第で、父への声かけや行動が変わり、いつも笑顔で穏やかでいられます。
こちらが穏やかなので、父も穏やかでいつも上機嫌で迎えてくれ、笑顔と握手で見送ってく
れます。
以前に比べると、父の物忘れの症状はかなり進んでいて、新しい情報は、数分後、すっかり
忘れ去られてしまいますが、食事、着替え、排泄、入浴などの身の回りのことは、介助なし
で出来ますし、髪をとかしたり、髭剃りや爪切りもきちんと出来ます。
施設の職員の方たちの適切な介助と見守りがあればこそと、感謝しています。
そして、週に1~2回、家族と一緒に父を訪ねている母の努力にも拍手を送りたいと思いま
す。
やはり、父の一番の心のよりどころは、離れて暮らしていても母だと思います。
母にとっても認知症を患ってはいても、父が一番の心のよりどころであることは、よくわか
ります。
心のよりどころである一番身近な人の認知症に対する捉え方が、認知症を宝物に変えるカギ
を握っているのです。
<捉え方 その①>
あなたの身近な人が、すでに認知症と診断されているならば、その人の
忘れっぽいこと、面倒くさがりなこと、怒りっぽいことの原因は、認知症だからなのだ、今の段階で認知症だとわかって良かったなぁ
と捉えることです。
原因がわかれば、治療が出来ます。
治すことは出来なくても、進行を遅らせたり、気持ちが安定するように薬を処方してもらっ
たり、リハビリやデイサービスなどの公的な支援を受けることが出来ます。
以前と変わってしまったその人の言葉や行動にショックを受けたり、その人を責めたり、ま
た、そんな自分を責めて落ち込ましなくていいのです。
「病気なんだもの」と一呼吸おけるのです。この一呼吸が大事なんです。
そして、専門的な知識や経験のある第三者に、思いを出せること、アドバイスを受けること
は、大きな安心感につながります。
治療を始めるのは、少しでも早いほうがいいのです。
<捉え方 その②>
認知症のその人は、あなたに、認知症の心構えを与えてくれているのです。
私だって、いつ認知症になってもおかしくないのだから、私の行く道を示してくれているんだなぁ・・・。認知症を予防するために、今、私に出来ることはなんだろう? 私が認知症になったら、周りの人にどんな風に接してもらったらうれしいかなぁ?
捉えることです。
心身ともに健康的な生活を続けるために、食事や運動、睡眠などの生活習慣を見直すこと
で、あなたの人生は大きく変わることでしょう。
その結果、あなたの未来は、認知症を発症しない、または、発症を遅らせる、発症しても落
ち込まずに前向きに生きていける人生に変えられるのです。
その人との出会いがなかったら、あなたの意識が変わるチャンスはなかったのです。
<捉え方 その③>
認知症は、忘れてしまう病気なのだ、とあなたの心にきちんとインプットしましょう。
その人は、ちょっと前のことを思い出すことが難しい、でも、今を精一杯生きている。私も、一緒に今を大切にしよう。今を大切にしよう。忘れてもいいよ。私が覚えているよ。笑顔でいることが大切だよ。
と捉えることです。
今、あなたに出来ることは、身近にいてくれる認知症の人に寄り添うことです。
目を見て挨拶をする、会話をする、その人の喜ぶことをする、相づちをうつ、一緒に笑う、
一緒に歌う、一緒に食べる、一緒に散歩する・・・。
その人の言葉や行動を「否定しない」ことを心がけます。
イエスマンになることが大切です。イライラしないように心がけます。
失敗してもいいのです。失敗しないと、わからないことがいっぱいあるのですから・・・。
失敗をして、その人を怒らせてしまったり、その人から叩かれたりすることもあるかもしれません。
でも、怖がらないで・・・、「ごめんなさい」と謝って・・・。その人は、直ぐに許してくれます。そして、怒ったことも、あなたを叩いたことも直ぐに忘れてしまいます。
嫌なことも、辛いことも、その人は直ぐに忘れてしまうんです。
何度も失敗しながら、認知症のその人に寄り添うことで、少しずつ一緒にいる時間を楽しめるように変わってきますよ。
認知症の人は、今を精一杯生きている人です。私たちは、どうでしょうか?
今を生きているにもかかわらず、実は過去のことを後悔したり、未来のことを心配したりし
ていませんか?
今を精一杯生きることが、過去を肯定し、未来に希望を見い出していくことにつながること
なのに・・・。
お互いに笑って過ごすことが多くなり、穏やかな優しい時間がながれるようになります。
<捉え方 その④>
その人は、あなたの中にある優しさを引き出してくれます。今まで気づかなかった、あなた
の知らないあなたを発見できる時がきます。
これまでに、その人から優しさや親切や愛を、頂いてきました。今、ようやく恩返しさせて頂くチャンスをもらっているんだなぁ
と捉えることです。
穏やかな時間は、これまでの長い間に、その人からもらった、たくさんの優しさや親切や愛
に気づかせてくれます。
認知症が気づかせてくれたこと、認知症の人が気づかせてくれたことは、きっと、あなたの
可能性を引き出してくれますよ。
<捉え方 その⑤>
認知症を宝に出来た私の体験が、認知症で悩むだれかの役に立つ
と捉えることです。
あなたの周りには、身近な人の認知症に悩む人が、たくさんいることに気づくでしょう。
その人に、「大変ですね。わかりますよ」「辛いですね。お話聞かせてください」と寄り添
ってみて下さい。
まずは、辛い思いや苦しい体験を、ただ、うなづきながら聞いてあげて下さい。
それだけで、どれだけ心が軽くなるでしょう。それは、同じ体験をした人にしか出来ないこ
となのです。
いっぱいいっぱいに張り詰めた心は、思いを吐き出さないと、人の話も貴重な情報も入って
はいきません。聞いてもらったら、聞くことが出来るようになります。
あなたの貴重な体験、気づきが、悩む人の心にスーっとしみていくと思いますよ。
悩む人の心が、少しでも楽になると、不思議とあなた自身の心が楽になるのを体験出来ま
す。