ことばの力

認知症は人生の鎮痛剤

認知症は人生の鎮痛剤

「認知症は人生の鎮静剤」・・・なんてうれしい言葉でしょう!とても共感します。こ

の言葉は、2020年9月21日、sonpoホールディングス株式会社主催の「共に生きる

~認知症を考えるセミナー~」において、特別講演で、医師・佐々木淳氏が述べら

れた言葉です。認知症というと、悪いイメージを持つ人がほとんどだと思います

が、認知症には良いこと、うれしいことも、沢山ありますよということなのです。

佐々木医師は、認知症の人は、ガンを発症しにくい、発症しても進行が遅いとおっ

しゃいました。さらに、痛みや苦痛も感じにくいのだそうです。ガンに限らず、病

気になれば、その先にある痛みや苦痛、そして、死ということを考えて、恐怖や不

安のストレスに押しつぶされそうになると思いますが、確かに、認知症の方は、病

気であることを忘れてしまいます。

毎日、認知症の方に関わっていらっしゃる佐々木医師のこの言葉に、納得し、強く

共感しました。認知症の父のこと、これから、認知症を発症するかもしれな身近な

人のこと、そして自分自身のことを思ったとき、記憶の混乱と引き換えに「人生の

鎮痛剤」を手にすることが出来ると言われ、ささやかな安心と安らぎをえることが

できました。

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認知症は、神様から頂いたご褒美

8年ほど前に、認知症を発症し、施設に入所して2年の父とのふれあいの体験か

ら、佐々木医師の言葉にうなづくことが多くて、これから、父とどのようにふれ

あっていけば良いか、母にどのように寄り添えば良いか、自分自身がどう生きてい

けば良いのかを、前向きに考える機会となりました。

コロナ禍で、なかなか会えないのですが、時々、たくさんの制限の中での父と面会

し、「お父さんは、幸せだね、今を一生懸命いきていて。嫌なこと心配なこともす

っかり忘れて。こんな幸せな老後は、おとうさんが、人のお世話をいっぱいしてき

たご褒美だよね」私が、母にそう言うと、母も「そうだね」と返してくれるように

なりました。

以前は、母も私自身も、現実を受け止められずに、辛い時期もありましたが、今

は、心の底からそう思います。私たち家族が「なぜ、お父さんが・・・かわいそ

う・・・」と思わなくなり、現在の父を肯定できるようになってきたのと、施設で

暮らす父が落ち着いてきたのは、同時期だったような気がします。大きな出来事を

受け入れるのには、やっぱり、それなりの時間が必要でした。元気な頃の頼もし

い父の姿が、現在の父を肯定する邪魔をすると言うか・・・でも、・・・それも必要な時

間だったんだと思います。

施設に入所間もない頃、父は、面会に行った私たちと楽しい時間を過ごすと、帰る

時に必ず「泊まっていけ」と言ったり「一緒に連れて帰ってくれ」と言ったりしま

した。「お父さん、糖尿病の治療が終わってないから、まだ、帰れないんだよね。

先生に退院のお願いをして帰るから、もう少し待ってね。」と説得して、ちょっと

切なくなるのが常でした。「帰れないんだよ」と伝えるより、嘘でも「先生に退院

のお願いをするね」と言って安心させてあげることが大切です。自分の部屋から出

て、フロアでスタッフの方に声をかけてもらうと、自分の居場所はここなんだと認

識するようで、握手をして「ありがとう。気をつけて帰れよ」と機嫌よく笑顔で手

を振ってくれます。ちょっと前のことを忘れますので、帰りたいと言ったこともす

っかり忘れています。施設スタッフの方のタイミングのよい声かけも有り難いで

す。連携プレーは大切です。環境に慣れてくると、とても落ち着いてきて、一緒

に帰るとは言わなくなりました。毎回「おとうさん、また、明日ね」と言って、握

手をして帰ります。翌日、来れることは滅多にないのですが、父が安心し喜ぶよう

な声かけをするようにしています。「うん、明日ね」って、笑顔になります。

父にとっては、何でも初めて聞く新鮮なこと、「へぇー!そうかい!」と感動しま

す。たった今の父を喜ばせてあげると、いつも幸せなのです。

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だいじょうぶ!!認知症でも、楽しく生きられる

「共に生きる~認知症を考えるセミナー~」は、このコロナ禍の中、オンラインセ

ミナーや会議のためのアプリzoom(ズーム)を使って行われ、私も初めてのオン

ラインセミナーを体験しました。

当日は、若年性認知症の下坂厚さん(47歳)がパネリストとして登壇して下さい

ました。診断を受けて2年、奥さんやお子さんと暮らし、現在は介護の仕事をしな

がら、インスタグラムで若年性認知症を公表して、写真や言葉で、前向きな生き方

を発信していらっしゃいます。もともと写真のお仕事をされていたそうで、下坂さ

んの生活を伝えるメッセージ性の高い写真は、優しく温かく強く「認知症になって

も、出来ることはまだまだ沢山ありますよ」と語りかけてくれます。

佐々木医師は、生きがいが認知症の最大の治療薬だとおっしゃいました。生きがい

をもって生活すれば、進行の速度は、おさえられると。生活の中で役割を持つこと

が大切だということです。目の前に手助けを必要とする人がいれば、人の役に立と

うとしてくれるのだと。特に、若年性認知症の方は、まだまだ、若くて、守るべき

ご家族もいらっしゃるし、やりたいことも沢山ありますものね。若年性認知症の方

たちの生き方、働き方は、これからの認知症の方と共に生きる社会を充実させてい

くために大きな影響を与えていると思います。下坂さんのように、セミナーやイン

スタグラムなどで、どんどん発信して頂けると有り難いなぁと思いました。

セミナー後、直ぐに、下坂さんのインスタグラムをフォローさせて頂きました。ま

た、下坂さんも私のインスタグラムをフォローして下さいましたので、学び続けて

いきたいと思います。

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「おとうさん、ありがとう!」を伝える

生きがいを持って、役割を果たして、生活することで、進行を止めることは出来な

くても、進行の速度を落とすことが出来るという、佐々木医師のお話でしたが、施

設スタッフの方は、父に洗濯物をたたむ手伝いの声かけをして下します。外出の許

可を頂き、自宅へ帰ったときには、草取りを手伝ってくれたり、包丁研ぎをしてく

れたりしていました。今は、外出なんて出来ない状態ですが、面会ができたら、

「一緒に歌が歌えて楽しかったよ。おとうさん、ありがとう!」

「今日は、会えてうれしかったよ。おとうさん、ありがとう!」

握手をし、目を見て、笑顔で伝えます。認知症の父だから、伝えられる私です。

元気な父には、照れくさくて、握手もできない、お礼もいえない私のために、認知

症になってくれたのかもしれないですね。

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ABOUT ME
かな
好きなこと:手仕事・読書・旅・映画   憧れる人:ターシャ・テューダー     一番欲しいもの:自分の時間